一瞬ですべてが変わった
2019年12月、出版・印刷業界の多分にもれず、
藤田は忙しい年末を過ごしていた。
「これは大事になるかもしれない」
中国で流行する新型ウイルスに抱いた
予感めいたものも、 締め切りに追われる毎日に流れていった。
しかし、年が明けてすぐに予感は的中する。
想像をはるかに越えるスケールで。
2020〜2023年のコロナ禍は、あらゆる業界に深刻な打撃を与えた。
藤田が経営するCTE社の出版・印刷業界も例外ではない。
「積み上げてきたものがすべて崩れた」(藤田)
旅行や外食のクライアントを中心に印刷物の依頼がストップ。
売上は一時、前年比60%まで減少した。
仕事がなくなり、以前と打って変わってシーンとした社内。
「この会社はもう無理だ」
公然と言い放つ社員もいた。
苛立ちの正体は…
「そんなこと、ずっと前からわかってるんだよ!」
藤田は怒鳴りつけた。
社員ではなく自分自身を、だ。
出版・印刷業界には構造的な課題がある。
編集者やデザイナーの指示に従い、 文字や画像をレイアウトする仕事がCTEの受け持つDTP組版。
クリエイティブな業界にあって、 アイデアや創造性で差別化が難しい。
だから、どうしても大量の案件を目の前にすると「こなす」仕事になりがちだ。
10年以上前から、そこに限界を感じていた。
もちろん、手は打ってきたが…
「忙しさ」は麻薬のようなものだ。
将来の心配より、今日、明日の下版をどう乗り切るか。
みんなで山を越えた後は、充実感もある。
「このままじゃいけない」と思いながらも、
その実は「こなす」仕事に満足していたのだ。
しかし、今度こそ本当に仕事が、それこそ明日の下版もなくなるかもしれない。
本気で変わるときだ。まず、自分から。
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